「それは心を許した者にだけって事だよ」
「でも、私の”匂い”が好きだから、そう感じるのではないですか?」
「確かに君の匂いはとても好きだ。ずっとこの匂いに包まれていたいと思うほどに……」
そう言って私を抱き寄せて頭にキスをしてくる。嬉しいと思う反面、やっぱり私の”匂い”が好きなのだと思うと私自身を好きでいてくれていたわけではないという事が、なぜだかとても悲しい気持ちになる。
そこまで考えてようやく自分の気持ちに気付いてしまった……私はアルフレッド様が好きなのだと。
今まで匂いに執着されていると思っていたし、他の人とも距離が近くて自分だけではなかったのだと気付き、心にモヤモヤしたものがあった為、深入りしたくなくて気持ちを閉ざしていた。それに私自身、恋愛など縁がなく、こんな気持ちを男性に抱いた事などない。
つまり初恋なのだ。
その初恋の人にこうやって抱き寄せられてキスをされるのはとても幸福な事なのに、その相手は自分の匂いが好きだと言うのだから、堪らない気持ちになってしまうというものだ。
「では、私の匂い以上にもっと好きになれる匂いの女性を探してくださればいいのです」 自分でそう言っておきながら苦しくて顔を上げられない、今上げたら涙が出てしまう。他の女性のところにいってしまう事も嫌なのに、私自身を好きではない人と結ばれる気持ちにもなれないなんて、矛盾だらけもいいところだ。
「違うよ、シャルル。匂いが好きになったのは後の事で、本当は修練場で汗を流す君に一目惚れしたのが先なんだ」「え?」
「真っすぐな目をしてひたすら己を磨き上げている君が美しくて仕方なかった。汗を流して、毎回見るたびに騎士として誇りを持って鍛錬している姿に釘付けだったんだよ」
「……毎回?」
「そう、毎回……まだ父上が亡くなって間もない頃、当主として右も左も分からない状態だった私は途方に暮れていた。君のお父上やリヒャルトに助けてもらいながら何とかやっていたんだけど、オーランドルフ城に来るといつも修練場で一生懸命汗を流している女性を見かけては陰からこっそり見ていたんだ。前だけを見つめている君はとても眩しくて……」
確かにアルフレッド様が公爵家の当主になって城にやってきているのは知っていたけれど、最初の内は話す機会もなくて、お兄様のご友人が来ている程度の認識しかなかった。あの頃、こっそり見られていたの?
確か騎士団に入り立てで、早くお兄様と肩を並べたくて必死に剣を振っていた時期だと思う。 アルフレッド様はあの頃を思い出すかのように遠くを見つめながら、その当時の事を話し続けた。 「すぐにリヒャルトの妹君だというのが分かって、私よりも5歳も年下なのに自分を見失わない君と胸を張って話せるようになりたくて……当主としての仕事も頑張る事が出来たんだ」「そ、そうなのですか?まさか見られていたとは知りませんでした……」
「なかなか声をかけられないでいたけど、君が私を見つけて声をかけてくれたんだ。夏の暑さで汗を流している私にタオルを貸してくれたんだよね。そのタオルから君のいい匂いがしてきて……それ以来君の匂いには敏感なんだ」
「タオルの匂いなど、どこが良いのですか?汗臭くて渡さなければ良かったと思っていたのに――」 私の至極真っ当な質問にアルフレッド様は心底おかしいと言わんばかりに笑いながら、満面の笑顔で答えてくれる。 「確かに自分の汗拭き用タオルを私に渡す女性は君くらいかもしれないね。でもそんな飾らない君がとても好きだから、可愛いとしか思わないんだけど」 なんていう殺し文句をなんて笑顔で言ってくるのだろう。恥ずかしさのあまり、とてもじゃないけどアルフレッド様の顔を直視出来ない。 これは愛の告白を受けていると思っていいの?アルフレッド様が、私を好きだと仰っている?全然頭がついていかない――――「シャルル、そんな君に叶えてほしい願いとは、私の妻になってほしいという事なんだ」
「え?妻?」
騎士になる事にばかり一生懸命で、結婚など考えた事もなかった私にはとても縁遠い言葉だった為、驚きのあまり素っ頓狂な声を出してしまう。 「私は君をとても愛しているし、私には君しかいない。でも騎士になりたくて自軍に入隊してしまう君に、妻になってくれと言うのはとても悩ましくて……私がこんなに距離を詰めていても全く私の気持ちにも気付きそうにないから」「そ、それは……私だけに距離が近いと思っていなかったから……父上や皆は何と言っていたのですか?」
「皆、君の意思に任せると言っていたよ。だからシャルルにお願いしようと思ったんだ。シャルロッテ・オーランドルフ嬢、君の全てが愛おしい。まだまだ未熟な当主だけど、こんな私とどうか結婚してほしい」
私の手を握って手の甲にキスをしながら、真剣な眼差しで結婚を懇願してくるアルフレッド様の瞳は、いつにも増して熱を帯びながらも誠実さを湛えていた。さっきまでアルフレッド様が沢山の女性に囲まれている姿をみてすっかり沈んでいたのに、彼の言葉が私の体にしみわたり、体中が喜びに満たされていく。
自分があまりにも現金で恥ずかしくなってしまい、素直に気持ちを伝えられない私は、またしても可愛げのない返答をしてしまうのだった。 「…………私だって、好きでもない男性にベタベタ触らせたりしませんよ」 ああ、もっと言い方ってものがあるでしょうに…………そんな私の気持ちなど気付いていないのか、アルフレッド様の顔が輝いているのが分かる。「それじゃあ………………」
「よろしくお願いいたします」
何とかなけなしの勇気を振り絞って私が頭を下げると、突然アルフレッド様の両手によって顔を上に向けられたと同時にキスの嵐がふってくる。 「シャルル……大切にするから……」「ぁ、んっ…………ふぁっ……んんっ」
喋りたいのに息つく間もないほどのキスで、そのままソファに倒れ込みながら互いに舌を絡め、口内を貪り合った。アルフレッド様のあまりに激しい愛を一身に浴びて、背筋が粟立つのが止まらない。彼の舌が私を待ちわびていたかのように歯列を味わい、舌を擦り合わせ、唾液をすすりながら舌に吸い付いてくる。
その間も私を離すまいと両手で頬を包み込み、優しいのに情熱的で、彼の熱情に溶かされてしまいそうだった。
そしてふいに私の下腹部に硬いモノが当たる。 これはもしかして………… アルフレッド様は私の手を自身の硬くなったソレにあてがい、恍惚とした表情で伝えてくる。 「君だけだよ……私のココをこんな風にしてしまうのは。君の匂いを嗅いだだけでも反応してしまうくらいなのに……」 私の匂いだけで?彼が反応するのは私だけ? その事実が私を酷く喜ばせ、喉がゴクリと鳴ったのを彼は知らない。私はズボンの中でガチガチに硬くなっていたソレが、私への愛情の深さに思えてとても愛おしく感じ、たどたどしくも布越しに握ったり上下にさすってあげた。
すると、私の手の動きに合わせて彼から甘い声が漏れてくる。 「ぁ、くっ………………ダメだよ……っ」 ダメと言いながらも気持ちが良いのか、私の手に無意識に擦り付けている腰の動きに、私の中でアルフレッド様を気持ち良くしてあげたいという気持ちが溢れ出してきてしまうのだった。 「ん、アルフレッド様……気持ちいい?」「ああ……君の手で触られているかと思うと堪らない」
アルフレッド様の腰の動きが増してきて、もっと、もっとと言われているような気がしたので、はしたないと思いつつもおずおずとズボンの中に手を入れて硬くなった男根を直に触ってみた。 「ぁ、直接は、ダメッ…………くっ……ぁ、あっ」「気持ちいいのですね。もっと私で気持ち良くなってください」
私の手で気持ち良くなっている彼がとても愛おしく、彼の男根を擦る手の勢いが増していく。窮屈そうなズボンの中から出してあげると、初めて見る男性のソレに釘付けになってしまう。
これがアルフレッド様の……とても大きい。ピクピクと痙攣し、先の方から汁が滴ってきているわ……ぬるぬるとしてきて、滑りが良くなるととても気持ち良さそう。もっと、もっと私の手で気持ちよくなればいい。
そして私でいっぱいになればいい。 独占欲でまみれた自分の気持ちを誤魔化すようにアルフレッド様の唇を引き寄せ、舌を絡ませると、私の手の中にあるソレはさらに質量を増し、硬くなっていった。 「ん、ふっ……んんっ…………は、ぁ、シャルル……愛してる」「アルフレッド様……んっ……わたし、も……っ!」
「あ、出るっ………………~~~っ」
私が自分の気持ちを告白したと同時に、アルフレッド様の体がビクビク痙攣し、彼の男根から熱い精が解き放たれた。 自身の精で私のドレスが汚れてしまわないように私のドレスをたくし上げ、太ももに吐精していたのだった。 これが男性の…………荒々しい息遣いで胸を上下し、私を見下ろすような体勢のアルフレッド様は、瞳に怪しい光を宿しながら獲物を見るような目をしていた。「でも、他の人とも距離が近いとお兄様に言われていたではありませんか。私じゃなくても――」 「それは心を許した者にだけって事だよ」 「でも、私の”匂い”が好きだから、そう感じるのではないですか?」 「確かに君の匂いはとても好きだ。ずっとこの匂いに包まれていたいと思うほどに……」 そう言って私を抱き寄せて頭にキスをしてくる。嬉しいと思う反面、やっぱり私の”匂い”が好きなのだと思うと私自身を好きでいてくれていたわけではないという事が、なぜだかとても悲しい気持ちになる。 そこまで考えてようやく自分の気持ちに気付いてしまった……私はアルフレッド様が好きなのだと。 今まで匂いに執着されていると思っていたし、他の人とも距離が近くて自分だけではなかったのだと気付き、心にモヤモヤしたものがあった為、深入りしたくなくて気持ちを閉ざしていた。 それに私自身、恋愛など縁がなく、こんな気持ちを男性に抱いた事などない。 つまり初恋なのだ。 その初恋の人にこうやって抱き寄せられてキスをされるのはとても幸福な事なのに、その相手は自分の匂いが好きだと言うのだから、堪らない気持ちになってしまうというものだ。 「では、私の匂い以上にもっと好きになれる匂いの女性を探してくださればいいのです」 自分でそう言っておきながら苦しくて顔を上げられない、今上げたら涙が出てしまう。 他の女性のところにいってしまう事も嫌なのに、私自身を好きではない人と結ばれる気持ちにもなれないなんて、矛盾だらけもいいところだ。 「違うよ、シャルル。匂いが好きになったのは後の事で、本当は修練場で汗を流す君に一目惚れしたのが先なんだ」 「え?」 「真っすぐな目をしてひたすら己を磨き上げている君が美しくて仕方なかった。汗を流して、毎回見るたびに騎士として誇りを持って鍛錬している姿に釘付けだったんだよ」 「……毎回?」 「そう、毎回……まだ父上が亡くなって間もない頃、当主として右も左も分からない状態だった私は途方に暮れていた。君のお父上やリヒャルトに助けてもらいながら何とかやっていたんだけど、オーランドルフ城に来るといつも修練場で一生懸命汗を流している女性を見かけては陰からこっそり見ていたんだ。前だけを見つめている君はとても眩しくて……」 確かにアルフレッド様が公爵家の当主になって城にやってきて
「閣下……どうして」 あの人混みから解放されていたとは驚いたわ。そして私のところに来た事も……何となく閣下の笑顔が胡散臭いような感じがするのは気のせい? 「君が気持ち良さそうに踊っているから、私も一曲お願いしようと思って。シュヴァリエ卿、次は私に譲ってもらってもいいかい?」 「あ…………は、はい」 さすがに公爵閣下からの申し出にはシュヴァリエ卿もその場を辞するしかなかったみたいで、すぐに引き下がっていった。 ちょっと拍子抜けした自分がいる。 あれほど私と踊りたいと言っていたのに公爵に声をかけられると、途端に引いていくとは。 閣下の周りにはあれほどの人が集まり、地位も、美貌も手に入れているのに対して私は――――途端に自分に対して腹立たしいような悔しいような気持ちが湧いてくる。 私が惨めな気持ちでいる事など全く気付いていない閣下は、ダンスの為に自然な所作で手を差し出してきたので、ひとまずこの場は自分の手を乗せ、反対の手を彼の肩に置いてゆっくりと踊り始めたのだった。 踊りながらも夜会にきてからの様々な事が頭を離れない。 悔しい、私には騎士団の隊長以外、何もない。 元来負けず嫌いな性格も相まって、全てにおいて閣下に勝てるところがない自分に対してイライラしているのが分かる。 でもそんな自分を悟られたくない……可愛げが無さ過ぎて笑えてくる。 子供扱いしかされないのも納得だ、言いがかりもいいところだし、こんな事なら夜会など来るものではなかった。 ずっと下を向いて踊っていた私に対して、自然に上を向くように閣下がダンスをリードしていく。 目が合いドキリとしたかと思うと、気付けばこうやって体がピッタリとくっついていて、意外と胸板が厚い事や背の高い私が覆われてしまうくらい彼が大きくて安心感があったり、色々な事に気が付いて心臓がうるさい。 「先ほどは助かりました。あ、ありがとうございます」 顔に熱が集まっているのを誤魔化すように、何とか先ほどのお礼を述べて会話を探した。変じゃないわよね、普通に喋れているわよね。 「一番最初のダンスは私が君と踊りたかったのに……何で挨拶に来てくれなかったの?」 「え、でも女性に囲まれて近づけるような雰囲気ではなかったので、不可抗力ではないでしょうか」 「……それで他の男と踊って
あれから、どうにも落ち着かない自分の気持ちを整理する為に毎日夢中で剣を振り続けたけれど、何となく調子が良くない気がして、剣にもそれが影響している感じがする。 どんどん気分が落ち込んでいく感じがするので、なんとか気持ちを切り替えなければ。 そうだ、一カ月後の国王陛下の生誕祭後に隣国との共同軍事演習がある。 その遠征に参加しよう。遠征には20日ほど城を留守にするので閣下に会う事もないし、違う土地や環境に身を置けば考えも切り替わるはず。 善は急げと思い、すぐに申請したのだった。 お父様にはとても驚かれ、その日に了承はしてくださらなかったけど、国王陛下の生誕祭が終わった後に決めると仰ってくださった。 生誕祭は国王陛下がお生まれになった誕生日にあたる日に王宮では祝賀パーティーが開かれ、国をあげて祝福ムードに包まれる日だ。 お父様もその準備に追われ、忙しいのだろう。 普段なら夜会の類は出席しない私でも、このイベントには出席しないわけにはいかない。 それが終わったら……騎士として遠征に行けるかもしれない。 いつもはそういった類のものはお母様の反対もあって行かせてもらえないのだけど、私ももう21歳だし許可してもいいと思い始めてくれたのなら嬉しい事だ。 生誕祭も夜会服は嫌いだから騎士団の服を着て王宮の警護にでもあたろうかなと思っていたのに、お母様にひと際煌びやかなドレスを用意されて泣きつかれたので、着ないわけにはいかなくなってしまうのだった。 ~・~・~・~・~ お母様が用意してくださったドレスは薄い水色のグラデーションカラーで、背の高い私でも似合うようなマーメイド型のドレスライン……腕の部分はオフショルダーになっていて、ロンググローブと併せるととても大人っぽい雰囲気にしてくれる。 極力ビジューはおさえていて、派手になりすぎないように配慮されているかのようなドレスだった。 ほとんどドレスを着る事のない私にとって、自分の為に用意されたかのようなドレスに気持ちが上がっていくのが分かる。 私にも女性らしく着飾って喜ぶ日がくるなんて思わなかった。 これなら閣下も子供枠には入れないはず…………そんな事を思ったところで我に返る。 子供枠に入れられたっていいじゃない、あの人が誰と何をして
どうしてこんな事になっているのだろうか―――― 国王陛下の生誕祭に来ていたはずなのに。 兄の親友とこんな事になるなんて、想像もしていなかった。 室内には互いの肌と肌がぶつかり合う音、甘い嬌声、淫らな水音が響き渡る。 大きなガラス窓には自分の蕩けきった顔が映し出され、口からはだらしなく涎を垂れ流し、彼から与えられる快楽に溺れ切っている自分がいた。 甘い吐息と彼の囁きで脳内はすでに思考を停止してしまっている。 そんな私に対しておかまいなしに彼からの底なしの愛が刻まれていく。 「もう、私から離れるなんて、言わない?」 「は、ぁ、ぁうっ……いわな、ぃぃ……あっ、あぁっ」 「絶対だよ……離れるなんて、許さない……!」 彼に腰を摑まれながら激しく打ち付けられ、責め立てられて、もはや懇願するしかなかった。 「あ、あ、あぁっフレド、さまぁ……なんか、キちゃうっ…………おかしく、なる、からっ……もう、ゆるして、あぁぁっ!!」 「シャーリー……シャーリー…………私の可愛い人、愛してるっ…………全部受け止めて…………~~~っ!」 その後まもなく意識を手放した私は、深い眠りに落ちていったのだった。 ~・~・~・~・~・~ 国王陛下の生誕祭より1か月前。 ――――オーランドルフ城内・修練場―――― 「いいぞ、シャルロッテ!そのまま斬り込んでこい!」 「や――!!」 ――――ガギィィィィィインッッ―――― 修練場に剣と剣のぶつかり合う音が響き渡った。 ここ、オーランドルフ辺境伯領には独立した騎士団がある。 長として束ねるのは私の父であるオーランドルフ辺境伯、兄のリヒャルトが第一騎士団隊長を務め、娘である私シャルロッテが第二騎士団の隊長を務めていた。 今日は久しぶりにお兄様が休みで手合わせをしてくれると仰ってくれたので、オレンジブラウンの長い髪は高く結い上げ、相手をしてもらいながら汗を流していた。 お兄様も私と同じくオレンジブラウンの短い髪で、女性としては背が高い私より一回りも背が高く、胸板が厚い。 見るからに強靭な肉体を持った男性といった感じだ。 そして私たちの周りをオーランドルフ騎士団の面々が、固唾を飲んで見守っている。 この修練場ではよく見る日常……